Sparkle Sustainably

INTRODUCTION

INTERVIEW

七窯社 鈴木タイル店

伝統工芸の担い手が作り上げる「やきものアクセサリー」には、カラフルな遊び心がたくさんつまっています。

INTRODUCTION

七窯社さんは、昭和24年から続く「美濃焼タイル」の老舗です。

現在まで継承してきたタイルの技術を用いて、アクセサリーを制作。 美濃焼タイルの新たな魅力を伝えています。

美濃焼の伝統的な技法を用いた、バリエーション豊かな「やきものアクセサリー」。

一つずつ表情が違って可愛らしく、上品で優しい温かみのあるデザインが魅力的です。 その日の気分に合ったアクセサリーを身に着けると、日常にちょっとした遊び心をプラスしてくれます。

■「人を装飾する」やきものアクセサリー

岐阜県東濃地方の伝統的工芸品、「美濃焼」*1。 その技術と伝統を活かし、大正3年に多治見市で誕生したのが、「美濃焼タイル」です。

大正12年に発生した関東大震災以降、昭和初期にかけて、レンガ造りから鉄筋コンクリート建造物などへの転換が進み、建物を装飾する色鮮やかな「美濃焼タイル」の需要が本格化していきました。

七窯社さんが、タイルを販売する商社として創業された昭和24年は、戦後復興の流れも相まって、美濃焼タイルがさらなる注目を集めていた時代でした。

昭和63年には、「有限会社鈴研. 陶業」として美濃焼タイルの製造をスタートされ、現在でも「役物タイル」と呼ばれる、建物の角を覆う曲がったタイルを主に製造されています。

七窯社さんがアクセサリーの制作を始めたのは、2014年。 3代目の鈴木耕二さんが、タイル市場の縮小傾向に懸念を抱いたことをきっかけに、当時インターンに来ていた学生のアイデアで、美濃焼タイルの技術を活かしたアクセサリーの構想を始めました。

タイルの製造を行っている会社がアクセサリーを制作することに、躊躇いがなかったわけではありませんでしたが、「建物を装飾する」という美濃焼タイルの本来の目的が、「人を装飾する」アクセサリーとしても繋がるのではないかと考え、現在では、全国100を越える店舗で取り扱いされるまでに広がっています。

■表情豊かな、4つのシリーズ

創業以来、継承されてきた美濃焼タイルの製造技術を活かしながら、美濃焼の伝統的な技法を新たに取り入れたアクセサリー。 その4つのシリーズを順に紹介していきます!

▶︎「まれもの」

陶芸作家の “ののむらみなみ” さんが、デザインから制作まで担当されているシリーズです。

こちらは、ブローチの「無花果」。
ののむらさんが得意とする、「貫入釉」が使用されています。 「貫入」とはガラス質の釉薬に生じるひび模様のことで、光を受けてきらきらと輝くのが特徴です。

▶︎「てのもの」

陶芸作家の “駒井香文” さんが、デザインから制作まで担当されています。

こちらのシリーズは、個性的な作風が魅力の一つで、何を表現しているデザインなのかと想像してみると楽しい、遊び心のあるアクセサリーです。

▶︎「かまもの」

上記二名の陶芸作家がデザインしたものを、七窯社さんの職人が一つ一つ丁寧に制作したアクセサリー。

伝統を取り入れながら新しい表現を作り出す作家と、自分の身に染みこんだ技術を用いて、作家の起こしてきたデザインを忠実に再現する職人。

異なる立場にいながらも、「工芸品を日常の中に取り入れ、気軽に楽しめるようにしたい。」という同じ想いを持って、アクセサリーを制作されています。

▶︎「メンズアクセサリー」

七窯社さんのメンズアクセサリーは、堅いカチッとしたスーツに一つ取り入れるだけで、ナチュラルなイメージを与えてくれます。

こちらのピンバッチ「しかく 黄瀬戸」は、美濃焼の伝統的な様式の一つである「黄瀬戸」に用いられる、淡い黄色の釉薬をかけて焼成されたアクセサリーです。

■やきものアクセサリーが完成するまで

2019年の11月にオープンした体験工房では、アクセサリーの販売の他、アクセサリー制作のワークショップ、工場見学も開催しています。(要予約)

工場見学では、「役物タイル」の製造だけでなく、アクセサリーの制作工程を見学することも出来ます。

七窯社さんの「役物タイル」は、7%の水分を含んだ粘土に、最大出力200tのプレス機で圧力をかけることで成形されます。

この「タイルの乾式プレス成形」を用いたアクセサリーの一つ。 「かまもの」シリーズの「わたぐも」が、アクセサリーとして完成するまでの工程を簡単に見ていきましょう!

始めに、小さなタイルをプレスし、アクセサリーのパーツを成形。 ひとつひとつ手作業で角を落とした後、模様を描き入れます。ここで用いられるのが、伝統技法「染付」。古くからお皿の絵付け等に使われてきた技法です。

模様の上から透明の釉薬をかけ、1250℃という高温で焼成すると、藍色がくっきりと浮かび上がり、艶やかな質感に変化します。 ここにさらに「金彩」をあしらい、再び800℃で焼成します。 最後に金具を取り付ければ、アクセサリーの完成です。

丁寧な制作工程を見学した後、お店に並ぶアクセサリーを手に取ると、職人さんの想いがひしひしと伝わってくるようです。

■時代の流れと共に、新しいことに挑戦し続ける

明治から大正にかけて進められた、建物の洋風化。戦後の建築ラッシュ。

美濃焼タイルは、美濃焼の技術と伝統をベースとしながらも、時代のニーズに対応した新たな形として誕生した「工業製品」です。

七窯社さんは、美濃焼タイルの魅力を多くの人に伝えるため、「伝統工芸」としての美濃焼に立ち返り、現代のサスティナブルなニーズに合わせた、やきものアクセサリーの制作をスタートされました。

時代の流れと共に、新しいことに繰り返し挑戦し続ける。七窯社さんの挑戦は、これからも続いていきます。

有限会社 鈴研.陶業(七窯社 鈴木タイル店)

店舗:507-0018 岐阜県多治見市高田腸 8-106

TEL 0572-22-0388

FAX 0572-24-1728

代表 鈴木耕二さん

七窯社 official website 七窯社 official Instagram

*1美濃焼
その歴史は古く、1300年以上前、朝鮮半島から伝えられた須恵器の技術がベースとなっています。灰釉をかけた陶器が焼かれるようになった平安時代頃から、東濃地方は本格的に焼き物の産地となりました。「唐物写し」という中国の陶磁器を倣って生産されていた室町時代。その後、安土桃山時代の動乱を避けて流れ込んできた瀬戸の陶工たちによって、豪華絢爛な文化を背景とした「美濃桃山陶」と呼ばれる美濃焼の代表的な4様式が誕生しました。(黄瀬戸、瀬戸黒、志野、織部) 現在では、経済産業省が指定する「伝統的工芸品」に指定され、陶磁器の全国シェア50%以上を占めるやきものとしても有名です。(参考:松井信義2009)

参考文献資料

  • 伊藤嘉章監修(2014)「図解 日本のやきもの」東京美術。
  • 伊藤嘉章他(2003)「日本のやきもの 窯別ガイド 美濃」淡交社。
  • 七窯社鈴木タイル店 https://nanayosha.com/index.html (2021/04/05参照)
  • 松井信義監修(2009)「知識ゼロからのやきもの入門」幻冬舎。

七窯社

INTERVIEW

伝統工芸を継承していく当事者として、新しいことに挑戦し続ける七窯社さん。

美濃焼タイルの技術を活かしたアクセサリーの魅力を伝えている、広報担当の森日香留さんに、体験工房にて、インタビューをさせていただきました!

■地域で分業され、製造される「美濃焼タイル」

――タイル市場の縮小傾向に懸念を抱いたことをきっかけに、アクセサリーの制作を始められました。縮小している一番の原因は何ですか?

森さん:まずは、安いタイルが海外で製造されるようになったこと。次に、国内では、タイル以外にも様々な選択肢が出てきたことが挙げられます。 特に後者に関しては、「タイルはメンテナンスフリーだ」とずっと言われてきました。しかし近年、バブル期に急ピッチで進められた粗悪な工事で貼られた外壁タイルが剥離する事態が発生しています。 そのような問題を受けて、「タイルに異常がないかどうか定期的にチェックしましょう」というのが法律で決まりました。それで、タイルが敬遠される。一枚一枚叩いてチェックしないといけないので、高い建物だと特に大変ですよね。

――七窯社さんがある高田町は、美濃焼タイルのメーカーが多く集まっている地域なのですか?

森さん:昔はありましたが、今はうちしかありません。高田町には、美濃焼の中でも高田焼と言って、徳利や湯たんぽを作っている窯が多いです。タイルが特に盛んなのは、ここからちょっと離れた笠原町という地域です。

――メーカー同士の交流はありますか?

森さん:あります。美濃焼タイルは分業制なんです。建築用タイルにおいて私たちが担っているのは生素地製造のみで、原料を作る原料屋さん、型を作る型屋さん、釉薬を作る釉薬屋さん、焼成を行う窯屋さんなどと連携してタイルを作っています。 もともと、美濃焼のお茶碗なども分業制で作られていて、それぞれのエキスパートがいます。美濃焼は、「特徴がないのが特徴」と言われるほど幅の広い焼き物ですが、美濃焼タイルは、美濃焼の技法的な部分だけではなく、そのような生産の仕組みも受け継いでいます。

■やきものアクセサリーの制作は、新たな挑戦

――均一性が求められる「役物タイル」の生産をされてきた中で、デザイン性が求められるアクセサリーの制作を始めるのは、とても難しいことだったように思います。

森さん:そうなんです。タイルは分業制で製造しているので、釉薬を作ったり絵付けをしたりする工程は、アクセサリーの制作を始めてから挑戦しました。アクセサリー制作においては、成形から釉薬をかけて焼くところまで、自社で行っています。大きい窯はありませんが、タイルの品質チェックのための小さい窯があるので、それを使って焼いています。この窯は小型な分、温度調節がしやすいため、アクセサリー制作には向いているんです。 その点では、私たちにとっても、アクセサリーを通して、今まで出会わなかった美濃焼の技術や伝統に触れる、新しい挑戦でした。

――七窯社さんのアクセサリーは、二人の陶芸作家さんによってデザインされています。 新しい感性をデザインに取り入れる作家さんは、伝統を継承する当事者である七窯社さんにとって、どのような存在ですか?

森さん:彼女たちから学ばせてもらうことはとても多いです。例えば、実際にアクセサリーを使う人に、より近い感性を教えてくれます。私たちが成形した建築用のタイルは、釉薬をかける別の会社に卸します。実際に、そのタイルを使って家を建てる人の顔は見えません。 しかし、使う人が欲しいと思ってくれるものでないと、作っても意味がないと気がついたんです。直接の取引先でなくても、実際に使う人のことを考えなきゃいけないと意識するようになったことも、アクセサリー制作を始めたきっかけの一つでした。

■伝統工芸の技術に、少しずつ、たくさん触れ合えるアクセサリー

――伝統を継承していく当事者として、アクセサリーが持つ役割や可能性をどのように考えていらっしゃいますか?

森さん:日常で使えて、手に取りやすいというところでしょうか。例えば器って、たくさんあると、収納して全てを使いこなすのは難しいですが、アクセサリーはいくつ持っていても困らない。たくさん持っていてもいいものだから、いろんなものに触れてもらえるという面はありますね。

――確かにそうですよね。タイルは建物を装飾するから、統一するという意味でも、取り入れる技法の数が限られてしまう。でも、アクセサリーは、「染付は持ってる。次は何にしよう。」という風に、伝統工芸の技術にたくさん触れ合える。ちょっとずつ、たくさんに触れ合える可能性はあるかもしれませんね。

森さん:シリーズごとに使っている技法が違うので、それを少しずつ知ってもらえるのは面白いところだと思います。これからも、もっと色々な作家さんとアクセサリーを作っていきたいと考えています。

■「アクセサリーを通じて、タイルに興味を持ってほしい。」

――森さん自身、美濃焼タイル製造する企業に就職し、伝統を継承していく当事者として働こうと思ったのはなぜですか?

森さん:私は多治見市が地元なのですが、もともと、地域おこしや町おこしに興味がありました。私にとって“町興し”とは、単にその町が経済的に豊かになるということではありません。経済的な豊かさよりも、その町に住む人たちがその町のことを誇りに思う、「多治見市出身」だということを自慢出来るという心の豊かさが重要だと考えています。 全国各地には、その地域が誇ることの出来る、素敵な文化や歴史があります。また近年は、「ストーリーを買う時代」とも言われ、そのような文化や歴史を重んじる風潮も出てきています。すなわち、それを提供できる作り手も求める買い手も存在していますが、両者が上手く繋がっていない状況があるのでは、と考えています。 そこを上手くリンクすることが出来れば、双方が幸せになれると思います。

――リンクさせるための方法として、考えていることはありますか?

森さん:今までは、作ることだけに専念していた部分があるので、「どうやって伝えるか」を考える必要があると思っています。七窯社も昨年頃から、商品説明を充実させたり、SNSを活用してお客様と繋がったりすることに注力しています。 また、商品やHPのデザインも重要だと考えています。まずは見た目の「あっかわいい」から興味を持っていただいて、そこから、背景にある美濃焼やタイルのストーリーに入り込んでいただけたら嬉しいです。

――まだまだやることがたくさんあるという感じですね。

森さん:たくさんあります!今は、役物タイルとアクセサリーをリンクさせていないんです。土臭いし、おしゃれとは程遠いので、掛け合わせることを避けてきたのですが、美濃焼タイルを製造していることが私たちの個性であり、「アクセサリーを通じてタイルに興味を持ってもらいたい」という想いが一番強い。なので、タイルの魅力を伝えるためにもアクセサリーを何かしらで結びつけたいと考えているところです。 やっぱり、私たちはアクセサリー屋ではなくて、タイル屋なので、そこはブレずにやっていきたいと思っています。

今回、ワークショップと工場見学に参加させていただきました。 その中で、タイルやアクセサリーを制作されている職人さんたちが、私たちを歓迎し、丁寧に説明してくださる姿がとても印象に残っています。

参加者の方からの感想で、「タイルの工場見学が面白かった」と言われることが多いそう。

「アクセサリーを入り口に、本業である美濃焼タイルを知ってほしい。」
七窯社さんの想いは、アクセサリーを手に取った方へ確かに届いています。

森 日香留さん

岐阜県多治見市出身

七窯社 鈴木タイル店 広報担当

美濃焼タイルの老舗が引き継いできた伝統を、
新たな形で伝えている。

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