INTRODUCTION
INTERVIEW
YURAI
日本人が大切に紡いできた美意識の原点「自然観」と「無常観」それらを五感で呼び覚ます、繊細なジュエリー
INTRODUCTION
いつからか、私たちの生活から遠く離れた、高貴で特別な存在となった、日本の伝統工芸。しかし、昔の人々にとってはもっと身近で、生活に寄り添った存在だったはずです。
YURAIさんのジュエリーは、衰退しつつある日本の伝統工芸を、ナチュラルな形でライフスタイルにアップデートしてくれます。 伝統工芸を新たな表現方法でジュエリーに落とし込むデザインには、日本人としての美意識を呼び覚ます、優しいパワーがあります。
■ブランドデザイナー 岡部春香さん
「YURAI」のプロダクトを手がける、デザイナーの岡部春香さん。
学生時代はファッションデザインを専攻されていましたが、日々新しいデザインを、絶えず考えなければならない忙しいサイクルの中で、好きだったはずのファッションをデザインすることが、苦痛になってしまったそうです。
その後、デザインの分野とは異なる職種を経て、以前より関心のあった日本の伝統工芸を取り扱うショップで、商品企画に携わりました。 人と自然が向き合ってきた歴史を感じさせる、伝統工芸の「本物の美しさ」と「和のかっこよさ」に惹かれ、一つのものに末永く携わることの豊かさに心が満たされたと言います。
一方で、かつての生活に寄り添った存在から、高貴で特別な存在として扱われるようになってしまった伝統工芸の現状に、危機感を抱いた岡部さんは、ファッションの表現に伝統工芸をマッチさせたプロダクトを発信できないかとブランドの構想を始めました。
岡部さんのこうした強い想いによって、「YURAI」は誕生しました。
■伊万里焼の本質を活かした、ファーストコレクション
歴史的な伊万里焼の窯元が多く集まる、佐賀県伊万里市の大川内山。 地域に根付いた伝統工芸を継承する窯元の一つ・畑萬陶苑*2さんと、デザイナーである岡部さんがタッグを組み、伊万里焼の新たな価値を提案しています。
伊万里焼をイメージするとき、和皿や湯飲みなどの食器を思い浮かべる人が多いかもしれません。 「SERIES_01」のジュエリーは、木瓜皿や桔梗皿、六角皿など、伝統的な和皿の形をモチーフにしたデザインが特徴的で、ジュエリーとの曖昧なバランスが絶妙なコレクションです。
小皿に牡丹の絵付がデザインされたイヤリング、「01 絵付 牡丹」。
伊万里焼には、素焼き後の「下絵付」と、「施釉」と呼ばれる釉薬をかける行程後の「上絵付」の二層で、絵付をする特徴があります。 その特徴を活かし、葉っぱの部分は藍色で「下絵付」。金色や赤色は「上絵付」で描かれ、奥行きのあるデザインとなっています。 縁にたまった釉薬のナチュラルなグラデーションも綺麗です。
桔梗の花弁をかたどったイヤリングとネックレス、「01 桔梗」。
伊万里焼の素材に使用される陶石は、成形後、釉薬をかけずに「素焼き」すると、このような真っ白に仕上がる特徴があります。伊万里焼ならではの特徴をシンプルに楽しむことが出来るジュエリーです。
手に取ってみると、陶石のひやっとした冷たさと、釉薬のつるつるした気持ちの良い質感。 すべて手作業で描かれたとは思えないほど精密な、少しずつ表情が異なるデザインが味わい深く、時間を忘れて見つめてしまうほど繊細なコレクションです。
■新たな伝統工芸のスタイルとは
「伝統工芸は、そのきらびやかな歴史だけ切り取られてしまいます。しかし、職人たちがその時代に合わせ、チャレンジし続けた結果として、今の伝統工芸のスタイルがある。」
「もちろん、大切に守っていかなければならない部分は要素として取り入れながら、今に合わせた新しいものに、変えていくべきだと思っています。」
デザイナーの岡部さんは、伝統工芸の在り方について、このように話してくださいました。
YURAIさんの伊万里焼コレクションを制作する畑萬陶苑さんは、今までの伊万里焼の概念を覆し、新たなスタイルを生み出すことに挑戦的な窯元です。
継承されてきた技術で制作を行う職人・畑萬陶苑さんのところへ、新たな発想を運び込むデザイナー・岡部さん。
このベストパートナーが生み出すジュエリーが、伝統工芸の新たなスタイルを確立し、継承していく先駆者となるかもしれません。
■日本人の美意識をライフスタイルにアップデート
永く使い続けられるジュエリーは、古き良きものを次世代へと伝え残していく可能性を秘めた存在です.
YURAIさんのジュエリーは、日本人が忘れかけている「日本人としての美意識」を、現代の私たちのライフスタイルにアップデートし、奥行きのある生活にしてくれます。
グローバル化、あるいは均一化していく社会にとって一番必要な、「自分らしさ」を表現するためのツールとして、大切に丁寧に身につけたいジュエリーです。
YURAI
デザイナー 岡部春香さん
全国の取扱ショップ/オンラインショップにて。
詳しくはWebサイトから
YURAI official website YURAI official Instagram YURAI online shop*1伊万里焼
1610年代に肥前(佐賀県)の有田で、日本で初めての磁器として誕生しました。土を原料とする陶器に対して、磁器は石を使って整形された後、「灰釉」をかけて焼成されます。
特に、1640年代くらいまでを「初期伊万里」と呼び、その後は、「古九谷様式」「鍋島様式」「柿右衛門様式」「古伊万里様式」というように、時代の流れと共に特徴を変化させながら現代まで継承されてきました。
白い素地に、藍色の染付(下絵付)とカラフルな色絵(上絵付)が二層で描かれる伊万里焼は、17世紀の中頃になると、ヨーロッパへの輸出品として大流行。現在では、「伊万里・有田焼」として、経済産業省が指定する「伝統的工芸品」に指定されています。
(参考:伊藤嘉章2014)
*2畑萬陶苑
佐賀県伊万里市の大川内山は、1675年頃から鍋島藩によって、将軍や諸大名への献上品「鍋島焼」を制作する御用窯が多く集められた地域です。当時は、その技術を外部に漏らさないよう、厳しく管理されていました。
1926年に創業した畑萬陶苑さんは、伊万里鍋島焼の技法を受け継ぐ窯元の一つ。伝統的な鍋島様式を継承しながら、歴史の枠にとらわれない革新的なデザインが魅力です。
洋風化した私たちのライフスタイルに寄り添った、洋食器やティーカップ等も制作されており、海外のブランドとのコラボレーションにも積極的に取り組まれています。
(参考:伊万里鍋島焼協同組合 ホームページ)
参考文献資料
- 伊藤嘉章 監修(2014)「図解 日本のやきもの」東京美術。
- 伊万里鍋島焼協同組合「秘窯の里 大川内山」(2021/03/15参照) http://www.imari-ookawachiyama.com//
- 経済産業省「伝統的工芸品」(2021/03/15参照) https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/nichiyo-densan/index.html
- 畑萬陶苑 https://hataman.jp/ (2021/03/14参照)
- YURAI https://yurai-design.com/ (2021/03/14参照)
- 吉村耕治 山田有子「侘び・寂びの色彩美とその背景―和の伝統的色彩美の特性を求めて」『日本色彩学会誌』41巻3号(2017年)40-43頁。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcsaj/41/3+/41_40/_pdf/-char/ja
YURAI
INTERVIEW
伝統工芸の新たなスタイルをジュエリーで表現するデザイナー・岡部春香さん。
サスティナブルな社会の流れの中で、日本の伝統工芸は今後どのように発展し、継承されていくのか。様々なお話を伺いました!
■かっこよく、伝統工芸をライフスタイルに。
――学生時代にフランスへ留学されていたそうですが、日本とフランスで、自国の伝統に対する接し方に違いはありましたか?
岡部さん:ありましたね。当時は、伝統工芸に対して特別な想いはなかったのですが、ヨーロッパへの憧れがすごくありました。西洋のものを生活に取り入れることがかっこいい。 でも、フランス人の友達は、自分の髪の色や目の色に合うものを好んで選んでいたことに驚きました。日本では「それ今人気だよね。いいな~!」というほめ方をしますが、フランスでは、「そのセーター、あなたの目の色にすごく合っているわ。」といったように、個々があって、それをどう表現しているのか、どう活かされているか、ということに重きを置いているんです。自分の生まれ育った場所がすごく好きで、「こんなにいいの!」というのを見せつけられました。いくら私が西洋のものを真似して取り入れても、かなわないなと。だから、「日本で生まれた私しか持っていないものってある。」と初めて気づいたんです。ぽてっとした顔だけど、それはそれで魅力あるな、好きかもしれないって。(笑)
――その想いがブランドイメージに繋がっているのですか?
岡部さん:日本の伝統工芸が私たちにとって、ちょっと遠い存在というか、高貴なもの、自分たちの生活からかけ離れた別世界のもの、みたいな風に思ってしまっています。それをかっこよく身に付けられたらいいな、という想いがあります。自分が産地に行って感動したことをどういう風に伝えられたらいいのかとか、伝統工芸をいかに私たちのライフスタイルの中にかっこよく取り入れられるのかという、ブランドとしての挑戦でもありますね。
■職人とデザイナー、お互いを知らないからこそ新しいものが生まれる
――YURAIのファーストコレクションに伊万里焼を選ばれたのはなぜですか?
岡部さん:まずは、ジュエリーとしてあるものではなく、全然違う要素のものをジュエリーに落とし込んでみたかったんです。本来、伊万里焼は食器を主に作っていますが、それをあえてジュエリーに落とし込もうと考えました。他の産地も検討したのですが、陶器に元々関心があったので、とりあえず伊万里に行ってみようと思ったんです。 日曜日の朝8時くらいに、伊万里の町をカメラだけ持ってふらふら歩いていたら、新聞を取りに出てきた窯元のご主人に、「東京から来たと~」って声をかけられました(笑)。それから私一人のために、工場の見学をさせてくれたんです。2~3時間、熱心に話してくれて。もちろんプロダクトも素晴らしいのですが、その熱量に圧倒されたんです。「自分のメーカーを宣伝したい」ではなく、「有田焼や伊万里焼、産地の魅力を多くの人に知ってもらえるなら何でもします」という感じなんですよね。 そのとき、他の産地も見ないまま、こことやりたいと思いました。
――YURAIさんのジュエリーを制作している畑萬陶苑さんと、実際にデザインのやり取りをしていく過程で、イメージに近づけなくて苦労した経験はありますか?
岡部さん:私が図案やスケッチで提案したものを、職人さんは、理想に近い形を考えていく素晴らしい技術を持っているので、なんとか要望に応えてくれています。デザイナーは、描いてるデザイン、「こういう風なことをやりたい」っていうのを上手に職人さんに伝えて、「これ難しいです」って言われる場合もあるので、他にデザインで工夫できる方法は何かあるかとか、もしくは技術で解決できるものがあるか、という流れです。 例えば、金属と組み合わせるために陶器に穴を開けるのは、職人さんにとっても新たな挑戦だったそうです。お互いを知らないからこそ、交わって新しいものが生まれます。 ただ、その過程で、私が東京ですべてをデザインしてしまったら、取って付けたようになってしまいます。自分でなるべく現地に通って、触れて、産地のスタイルや、職人さんが何を大事にして作っているのか、というのはすごく気を付けて、自分が感動したものをベースに、そのまま素直に取り入れるようにしています。
■言葉ではなく、五感で感じる美意識
――YURAIさんのジュエリーを手に取った方の反応はいかがですか?
岡部さん:「絵付のジュエリーを身に付けると、私の身なりもちゃんとしなきゃ、って背筋が伸びるような気持ちになります。」と言っていただいたことがあります。すごく極端に言うと、ぼさぼさの髪形で絵付のジュエリーって、あまりにもギャップがありますよね。 「着物を着る」という感覚と似ているのかなと思います。着物を着るときは、髪もきちんと整えないと似合わない。そのものにふさわしい風になる、もしくは、なりたいと思ってもらえたことが、すごく嬉しいなと思っています。 あとは、男性のお客様がプレゼントに購入されることも多いです。自分が美しいと思うもの、日本に生まれたことを誇らしく思えるもの。それを大切な人にあげたい。 素敵な連鎖という意味で、選んでくださっているのを感じています。
――近頃、エシカルな商品が注目を集めています。それと並行して、日本文化も見直され始めているように感じています。別のものであるはずなのに、同じタイミングで受け入れられるようになったのはなぜでしょうか?
岡部さん:心からいいなと思える人が増えたというのがあるのかな。ものが溢れかえっている。そして、競争の世界を経て行きついた先に、自分たちの生活を豊かにしよう、自分たちの身の回りのものから少しずつ意識を変えていこう、そういう発想になってきているのかもしれないですね。便利すぎるからこそ、作られた背景が見えるものを意識的に取り入れたい、あとはリアルをきちんと知った上で買いたい。そうすると、裏にはこんな歴史があって、とか、産地でこんな風に作られていて、という視点が敏感に働きますよね。自分たちのアイデンティティへの気づきもあるし、私たちの美意識とは何か。私の生き方って何だろう、スタイルって何だろう、という意識に変わってきているのではないでしょうか
――サスティナブルな社会に向かっていく中で、時代に対応しながら受け継がれてきた伝統工芸は、どのように発展していくのか。文化や伝統を大切にする精神や伝統工芸には、どのような役割があると思われますか?
岡部さん:日本にたくさんの伝統工芸がある中で、この先、残るものと残らないものはあって、残そうとしても難しかったら、仕方がないと思っています。でも、私が感動したものがあったように、残したいと思ったものは、残っていけば嬉しいですよね。 というのも、社会が便利になった分、すごく無機質になってしまった。その反面、癒しを求める人が増えているように感じています。その癒しの一つが伝統工芸で。 効率性では語れない・・・これを言葉で説明することは難しいんです(笑)。職人さんが時間をかけて作った技術や、人と自然とが向き合ってきた歴史を感じるものが生活の中に一つあると、癒やされますよね。極端な例で言うと、「風鈴」って、生活になくても困らない、無意味なものじゃないですか。でも、一つあるだけで風の通りを感じられる、五感を刺激して新しい世界を開いてくれる知覚の装置。伝統工芸も、五感を刺激する道具として、現代人に必要なものの一つだと思っています。
――そういう意味ではジュエリーもそうですよね。なくても困りはしないけど、生活にちょっと取り入れるだけで、癒やされる。
岡部さん:そうですね。すごく豊かになる。便利なものって、すぐに魅力をプレゼンテーションできるけれど、伝統工芸は、その魅力を言葉にするのが難しいからこそ、魅力があるのかなって。人によって感覚が違うからこそ、そこに魅力があるのかなと思います。 実際、YURAIのジュエリーを手に取ってくださった方も、「画像で見るより実物を見る方がすごく素敵。」と言われることが多いです。それもやっぱり、五感で触れるからこそ良さがわかる、ということなのかなと思います。
グローバル化は、外との交流を活発にする一方で、世界を均一化しつつあります。
筆者自身、世界に出て、日本人であるというアイデンティティを期待されたとき、自分をどう表現したら良いのか、悩んだことがありました。
「実物を見る方が美しく、素晴らしい。」
伝統工芸の原点に在る、日本人の美意識。
私たちの内側にも眠っているはずの魅力を丁寧に引き出し、日々を豊かに満たしてくれる素敵なジュエリーには、岡部さんの優しい想いが込められています。
岡部春香さん
北海道出身
YURAI デザイナー
2018年冬、ジュエリーブランド「HIN」を立ち上げる。
2020年11月、「YURAI」としてリニューアル。
日本の伝統工芸を取り入れたジュエリーをデザインしている
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