Sparkle Sustainably

INTRODUCTION

INTERVIEW

佐藤真珠

複雑な海岸線に囲まれた穏やかな入り江で美しい海を守りながら大切に育てられた美しい真珠には、自然の神秘と、受け継がれてきた伝統を感じさせる不思議な魅力があります。

INTRODUCTION

ここは、日本有数の真珠生産地、愛媛県は宇和島市の南側に位置する西予市明浜町。

穏やかな気候と石灰質を含む段々畑のみかん山を背に、カルシウム豊富な海からの恩恵を受けながら、昭和42年の創業以来、真珠養殖業を営まれているのが佐藤真珠さんです。

農薬を抑えた有機栽培で育てられているみかん山から流れてくる豊かな水は、アコヤ真珠貝の成長には欠かすことの出来ない、大切な栄養となっています。

■我が子のように大切に育てた真珠を、身につける方に直接届けたい

複雑な流通経路をたどり、身につける方の手に届くまでに高額な値段となってしまう一般的な真珠は、生産者にその売上がほとんど還元されず、日本の伝統的な真珠養殖の技術を衰退させてしまう大きな原因の一つとなっています。

佐藤真珠さんは、真珠の養殖から製品化まで一貫して取り組んでいるため、次の生産活動も継続的に行っていける最低限の利益を付加することができます。

それは同時に、真珠を手に取る方にとっても嬉しい、適正価格を実現することにも繋がるのです。

つくる側も身につける側も、真珠に関わるすべての人が幸せになれる真珠づくり。 そこには、我が子のように大切に育てた真珠を、身につける方に直接届けたいという、佐藤真珠さんの優しい想いが込められています。

■美しい環境づくりが、美しい真珠づくりに繋がっている

佐藤真珠さんでは、持続的な生産活動を次世代へと繋げていくための、環境に配慮した取り組みとして、過密養殖を避ける方法を取り入れたり、薬剤の不使用を徹底したりするなど、海にかかる負担を極力抑えながら、養殖を行っています。

真珠養殖は、その生産過程で自然に人の手が加わる産業です。

豊かな海を守る環境改善活動も事業の一環として考え、下水道の完備されていない明浜で合成洗剤を使用しない活動や、廃油石鹸の製造と使用の推進活動、海の緑地化を目指したワカメを植える活動等にも力を注がれています。

さらには、地元の小学生を対象に環境を守るための勉強会を開催したり、県外から訪れた観光客が真珠産業に触れることの出来る体験を実施したりと、地域を巻き込んだ活動も行っています。

■地域と共に歩む

地域を巻き込んだ活動として、佐藤真珠さんは1992年から、地域協同組合 無茶々園*3さんと提携を結び、団体を介して真珠の販売を開始されました。

地域の人々が同じモチベーションで環境改善活動に取り組み、共に海を守っていく。 豊かな自然に支えられながら地元に根付く生産活動を、同じサイクルの中で事業化し、まちづくりを発展させていく。

地域コミュニティがその土地に根付いた産業を、自らのアイデアで持続的な産業へと導く方法は、少子高齢化や人口減少、過疎化の問題を抱える日本の地方において、理想の姿とも言えます。

■持続的な環境改善活動を行うようになったきっかけ

今でこそ、日本でも先進的に環境改善活動に取り組みながら、真珠養殖の生産活動を営んでいる佐藤真珠さん。

ここでは、活動の原点となるストーリーを遡ってみましょう。

今から60年以上前、1955年頃から愛媛県の農村部では、沿岸漁業の不振が問題となっていました。 佐藤真珠さんもまた、家業であったイワシ漁が大不漁となり、廃業に追い込まれてしまいましたが、穏やかな波と栄養豊富な水が山から流れる明浜町の海域を活かし、昭和42年、佐藤真珠さんの真珠養殖がスタートしました。

そのわずか3年後、全国的な真珠の豊作が起こり、せっかく作った真珠を一部破棄するなど、大幅な生産調整が行われ、苦しい時代が数年続きましたが、日本の高度経済成長とともに真珠の需要も伸びていきました。

しかし、そんな日々も長くは続きませんでした。

1994年~1996年にかけて発生したアコヤ貝大量斃死*1が、瞬く間に全国の養殖場に広まっていったのです。その影響は佐藤真珠さんの養殖場にも及び、当時養殖していた25万個のアコヤ貝の内、残ったのは5万個ほどという時期もあったそうです。

死んでいくアコヤ貝を目の当たりにしながらどうすることも出来ない悔しい日々。

当時、アコヤ貝大量斃死の原因として、様々な説が唱えられました。 過密養殖や、ウイルスによる感染症説、魚類養殖で使用するホルマリンの薬害説・・・。

それらの中でも、佐藤真珠さんや地域の漁業関係者は、ホルマリンの使用に原因があると着目しました。 養殖魚の寄生虫駆除などに有効なホルマリンですが、発がん性が指摘されており、同じ海で育てられている養殖真珠にも悪影響を及ぼしている可能性があると考えたそうです。

継続的な漁場調査や県政や水産庁への働きかけ等の活動を続けた結果、平成15年に愛媛県議会で、全国初のホルマリンを禁止する条例*2が採択され、ホルマリンの使用は原則禁止されました。

そして平成17年以降、アコヤ貝の異常な斃死はなくなりました。

このアコヤ貝大量斃死での経験によって、佐藤真珠さんは、「海の環境を守ることが良質な真珠をつくることにつながる」と考えるようになったといいます。

この出来事が、持続的な環境改善活動を行うきっかけとなりました。

■サスティナブルな社会に対応した未来の真珠養殖

古代から続く真珠の歴史は、必ずしも明るく華やかなものではありませんでした。 しかし、一粒の真珠に込められる職人の情熱は、現在まで大切に受け継がれています。

サスティナブルな社会に対応した未来の真珠養殖とは、どのような姿なのでしょうか。 そのモデルとなるような佐藤真珠さんの活動が、きっとヒントを教えてくれるはずです。

海からの恩恵を受けながら行う生産活動だからこそ、真珠養殖の伝統的な技術と豊かな自然を未来へと繋いでいく取り組みが求められます。

真珠産業の伝統を次世代へと繋いでいく活動によって大切に育てられている真珠には、地域コミュニティをも包括した、サスティナブルなサイクルを作り出す可能性が秘められているのではないでしょうか。

佐藤真珠 株式会社

店舗:797-0113 愛媛県西予市明浜町狩浜2-207-2

TEL:0894-65-0080 FAX:0894-89-1377

代表取締役 佐藤宏二さん

佐藤真珠 official website

*1アコヤ貝大量斃死
1994年、鹿児島や大分、愛媛県に繋がる道後水道や宇和海の養殖場でアコヤ貝の大量斃死が発生しました。その後数年にわたって全国に拡大し、バブル崩壊の経済的落ち込みもあり、真珠生産量は激減、真珠養殖業に大きな打撃を与えました。アコヤ貝大量斃死の原因は、過密養殖、ウイルスによる感染症説、アコヤ貝赤変病と呼ばれる新型感染症説、魚類養殖で使用するホルマリンの薬害説などが指摘されましたが、現在に至るまで真相は解明されていません。また、三重県の英虞湾では、2019年から2年連続でアコヤ貝の大量斃死が発生しており、原因不明の海の異変は、全国の真珠養殖業者にとって大きな課題となっています。
東海テレビ「“2年連続”大量死の兆し…養殖真珠育てるアコヤ貝に“異変”」

*2「愛媛県漁業者等ホルマリン使用禁止等条例」
狩浜の7割を超える農家が加入をしている「農業組合法人 無茶々園」は、農薬の使用を抑えたみかんの有機栽培を40年以上前から積極的に行っています。この団体が中心となり、農業の枠にとどまることなく、一次産品の加工や商品開発、販売、環境改善活動や観光事業、福祉事業に至るまで、地域の環境を生かした営みを、まちづくり活動に反映していくために設立されたのが、「地域協同組合 無茶々園」です。狩浜と西予市宇和町を拠点に、「環境破壊を伴わず、健康で安全な食べものの生産を通して真のエコロジカルライフを求め、まちづくりを目指す運動体」として、地域循環経済と地域自給、事業推進による自立したモデルを作り上げ、まちづくりまで事業化していくことを目標に、地元の生産者と企業が一体となって組織を運営しています。
地域協同組合無茶々園 ホームページ

参考文献資料

  • 愛媛県議会(2003)「愛媛県漁業者等ホルマリン使用禁止等条例」 https://www.pref.ehime.jp/gikai/katsudou/teian/documents/horumarinjourei.pdf (2021/02/08参照)
  • 佐藤真珠株式会社 http://sato-shinju.com/ (2021/02/04参照)
  • 東海テレビ「“2年連続”大量死の兆し…養殖真珠育てるアコヤ貝に“異変”」ニュースONE、2020/6/10公開。 (2021/02/08参照)
  • 鳥飼行博「宇和海における真珠養殖の変遷:地域コミュニティの個人経営体に依拠した内発的発展」『東海大学教養学部紀要』49巻(2018年)、21-91頁。https://www.u-tokai.ac.jp/academics/undergraduate/humanities_and_culture/kiyou/pdf/2018_049/02.pdf (2021/02/04参照)
  • 地域協同組合無茶々園 https://www.muchachaen.jp/ (2021/02/04参照)
  • 山田篤美(2013)「真珠の世界史 富と野望の五千年」中央公論新社。

佐藤真珠

INTERVIEW

今回、新型ウイルスの影響で、直接養殖場へ伺うことは叶いませんでしたが、佐藤真珠3代目の佐藤和文さんに、気になったいくつかの質問にお答えいただくことができました!

全国的にも先進的に、環境改善活動に取り組みながら、真珠養殖を営んでいらっしゃる佐藤真珠さん。その活動に秘められたストーリーを深掘りします。

■流通経路の一元化で、適正な価格設定を実現

Q:一般的に真珠は、養殖してから複雑な流通経路を辿り、身につける人の手に渡るころには高額な値段となってしまいます。なぜ、そのようなサプライチェーンが出来上がってしまっているのですか?多くの真珠がトレーサビリティーを取ることが難しい要因は何でしょうか?

佐藤さん:加工の技術が難しいからだと思われます。加工といっても2種類、真珠そのものの加工、商品化(ネックレスやイヤリングなどにする)の加工があります。前者の加工は、真珠についているシミを除去する、色を調整する、たんぱく質を固め経年劣化を防ぐなどの高度な技術があり、それらが間に入るため、なかなか一元化できないと思われます。また、高額商品のため、通販から百貨店まで様々な販売チャネルが存在することも複雑な流通を作っている要因だと思います。そのため、トレーサビリティーが難しいという状況が生まれます。佐藤真珠では真珠の加工のみ神戸の専門業者へ委託し、その他はすべて自社で行うため、無駄を省いた適正な価格を実現しています。

■美しい海を守る地道な活動

Q:1996 年頃、全国的に起きたアコヤ貝大量斃死は、過密養殖、ウイルスによる感染症説などの様々な要因が考えられたそうですが、中でもホルマリンの使用に原因があると着目されたのはなぜでしょうか?

佐藤さん:当時、私は学生でしたので、父親が中心に活動していたのですが、真珠の漁場を中心にホルマリン濃度の自主調査をしていました。自然界に存在しないホルマリンが大量に真珠養殖の漁場に流れ、それらの濃度が高い場所でアコヤ貝が大量に斃死していたということです。

Q: 様々な環境改善活動を行っていらっしゃいますが、真珠養殖をする過程で、環境に負荷をかけないように行っている工夫はありますか?

佐藤さん:生産者によっては、ロープや籠などの資材に、海中の寄生虫がつかないような薬剤を使用する方もいるようですが、佐藤真珠では使用しません。また、規定に沿ってロープにアコヤ貝を吊るすなど、過密養殖をさけ、海に負荷をかけないように努めています。

Q:貝の清掃カスや糞などが、それらをエサにする植物プランクトンを増殖させることで赤潮を発生させたり、有機物が海底にたまることでヘドロとなったりすることがあります。 佐藤真珠さんでは、そのような問題をどのように解決されていますでしょうか?

佐藤さん:佐藤真珠の漁場のある明浜町狩浜は1つの湾の中で生産者は3社で少なく、そのような状況はまず発生しません。どちらかというと魚類養殖で毎日大量に消費される人口の餌の方がそのような影響が大きいかと思われます。ただ、その魚類養殖も近年の需要の減少により廃業する方が増え、逆に海の栄養素が少ない状況が続いています。エサが少なすぎる方が問題となっています。

Q:真珠を取り出す際に、すべてを再利用するという意味で、残った貝殻はどのように処理・処分されているのでしょうか?

佐藤さん:残った貝殻で内側がきれいなものは、中国やベトナムで貝細工として利用しますので、輸出業者に買い取ってもらいます。内側の汚いものは生産者で一か所に集め、一定量に達したときに業者に引き渡し、それらはカルシウム肥料の原料となります。

Q:真珠はその生産過程で人間の手が加えられるため、環境への負荷がかかってしまうことが、真珠養殖が始まって以来の課題だと思います。海をきれいにしながら生産活動を続けていくために、必要なことは何だと思われますか?その活動を全国的なものへと拡大していくことは難しいのでしょうか?

佐藤さん:佐藤真珠が続けているような、合成洗剤を使わない活動、ワカメなどの海の緑地化の活動、薬剤を使わない、過密養殖を避ける養殖などを地道に続けていくことかと思います。ただ、海の生産者は個性的な方が多いので無理に拡大することは難しいかと思います。佐藤真珠では地元にある「無茶々園」と事業提携をして、これらの活動も行っています。無茶々園のもつ消費者も巻き込みながら、これらの活動を広げていくことは取り組んでいます。

■真珠産業を未来へと繋ぐために

Q:アコヤ貝大量斃死が起きた 1996 年以降、全国的な真珠生産量が年々減少しています。要因は何でしょうか?

佐藤さん:愛媛県でいうと最盛期は800軒ほどの生産者がいましたが、1996年の大量斃死で半分の400軒になり、その後、個々の生産力は回復しましたが、リーマンショック(現在の真珠は輸出が8割ほどで輸出産業となっています)による価格の低迷によりさらに半分、現在は200軒の生産者です。これまでの経緯から考えると、生産量の減少には様々な要因があります。今後も、コロナ禍で将来展望は難しいですが、今のところ中国を筆頭に海外での需要はあります。

Q:養殖貝による日本の真珠生産は、100 年以上の歴史があると言われていますが、現在の真珠産業界が抱えている一番の問題は何でしょうか?

佐藤さん:原因不明の稚貝の大量斃死により真珠養殖そのものが危機に瀕している。コロナ禍で需要面でも不安要因がある。この2点ではないでしょうか。

Q:今後も、現在まで受け継がれてきた日本における真珠産業の伝統的な技術を絶やすことなく、次世代へと継承していかなければなりません。真珠産業の次世代の姿、未来への展望をお聞かせいただければと思います。

佐藤さん:今はまず、強い稚貝(母貝)を作って真珠養殖ができる環境を作ること。それに専念することではないでしょうか。この2年間、稚貝の養殖に失敗していますので、これが続くとほとんどの生産者が廃業します。 これまで稚貝の採苗は県の試験場や公営の孵化センターが行ってきました。愛媛県独自の母貝養殖、真珠生産の分業条例の影響も大きいかと思います。ただ、このような状況が改善されない今、民間で競争力のある業者の稚貝生産も推進し、技術を高めること、それがないと真珠産業の継続は難しいかと思います。安定した生産基盤があって初めて、技術の継承や後継者育成ができると考えます。

佐藤和文さん

佐藤真珠3代目で、販売部門統括。

大学卒業後、大手真珠販売会社、地元勝者勤務を経て現在に至る。

米国宝石学協会鑑定士(GIA-GG)の資格を持ち
真珠のみならずダイヤモンドやカラーストーン全てに精通。

地域協同組合無茶々園の理事も務めている。

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