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COLUMN

「エシカル消費」は、「人、社会、環境、地域、動物に配慮した様々な消費活動の総称として」包括的に用いられている言葉です。(「倫理的消費」調査研究会 2017) 例えば、フェアトレードやリサイクル、有機農業、地産地消、アニマルウェルフェアに至るまで、様々な概念を同時に表現することができます。

2020年の消費者庁の統計によると、日本での「エシカル消費」という言葉の認知度は、12.2%。 前回2016年の6.0%から、約2倍の上昇がありました。

なぜ、これほど急速に「エシカル消費」という言葉が広がっているのでしょうか。

■「エシカル」の始まり

時代は、1970~80年代に遡ります。 世界経済のグローバル化が進み、先進国が安い労働力や資源を求めて、世界中に工場を建て、経済の構造化が進んでいったこの頃。 大量にモノを使い捨てる、いわゆる大量生産・消費・廃棄のサイクルが出来上がりました。

日本の多くの企業もこのグローバル化の波に乗りましたが、ついに、あらゆる公害が発生する原因ともなり、地球規模で、地球温暖化や熱帯雨林の減少、ゴミ問題など、環境汚染の問題が深刻さを増していきました。

次第に、あらゆる情報が消費者の耳に入るようになったことで、途上国社会との搾取構造が指摘され始め、バリューチェーンやサプライチェーンを見直す動きが活発化しました。 そして、人や環境への負荷を気にする消費者が徐々に現われ、エコやフェアトレードなどの概念が、一般市民の間から生まれたのです。*1

■消費行動を見直す動き

「エシカル消費」という言葉の始まりは、1989年にイギリスで発行された「エシカル・コンシューマー」という雑誌だと言われています。

日本では、2009年に女性ファッション雑誌で取り上げられたのが、「エシカル消費」最初の登場でした。 その後、2012年の「消費者教育推進法」の制定や2014年の「日本エシカル推進協議会」の設立等によって、国内の「エシカル消費」への関心が高まっていきました。 (参考:下澤嶽 2017)

2015年に国連サミットで採択された、SDGsの項目の中には、「12 つくる責任 つかう責任」が組み込まれており、消費者である私たちの消費行動を見直すことが求められています。

最近では、エシカル消費の一つとして、「アップサイクル*2」といった取り組みも注目を集め始めるなど、私たちはグローバル社会の中で、あらゆる生産活動と消費活動を見直す、最初の入り口に立っているのです。

一方で、それがエシカル消費であるという、第三者認証や明確な基準がないまま、言葉のイメージのみが広がり、何でもエシカルだと言えてしまう状況であることも、大切なポイントです。

■明るみになった「紛争ダイヤモンド」の現実

このような、世界的なエシカル消費ブームの中で、「エシカルジュエリー」という言葉も誕生しました。

ジュエリーの在り方が見直され始めたのは、2000年頃。

ロンドンに拠点を置くNGO「Global Witness」が、1998年に出した報告書によって、紛争ダイヤモンド(conflict diamond)の存在が初めて明るみになりました。
(参考:武内 進一 2001)

紛争ダイヤモンドとは、国連で以下のように定義されています。

"conflict diamonds are diamonds that originate from areas controlled by forces or factions opposed to legitimate and internationally recognized governments, and are used to fund military action in opposition to those governments"

(引用:国際連合 ホームページ)

つまり、ダイヤモンド鉱山を占拠している反政府組織が、活動の資金源としているダイヤモンドが、「紛争ダイヤモンド」だというわけです。 特に中央アフリカや西アフリカでその多くが採掘されています。

2006年に公開された映画「Blood Diamond*3」で、その存在が世界中の関心を集めることとなりました。

■「キンバリー・プロセス」の問題点

そうした紛争ダイヤモンドを規制するべく、World Diamond Councilが導入した、KPCS (Kimberley Process Certification Scheme キンバリー・プロセス認証制度)が、2003年に国連で承認されました。

KPCSとは、ダイヤモンド原石が出荷される際に、認証の要件を満たしていることを証明する制度で、反政府組織の資金源となる紛争ダイヤモンドを、世界のサプライチェーンから排除する目的から設立されました。
(参考:KPCS Core Document)

キンバリー・プロセスのホームページによると、世界のダイヤモンド原石生産量の約99.8%が、KPCSによって認証を受けたコンフリクトフリーダイヤモンドとして流通しており、KPCSは、一定の成果を上げたようにも捉えられます。

しかし、この制度には、いくつかの大きな欠陥がありました。

あくまで、政府に反逆的な組織の資金源となる、ダイヤモンド原石のみを規制対象としているため、その他の組織による、鉱山労働者への暴力や強制労働、深刻な人権侵害、さらには児童労働を取り締まる等の内容が含まれていません。

複雑な流通経路を辿るダイヤモンドは、その産出国を取り締まるだけでは、完全に負の要素を持っていないとは言い切ることが出来ません。 そして、加盟国の政府に運用を任されており、制度に強制力がないことも問題の一つです。

2008年に、KPCSに加入していたはずのジンバブエで、政府軍(ZANU–PF)によって、鉱山労働者の虐殺事件や集団レイプが発生したことも、欠陥を証明する証拠の一つとなりました。(参考:Audrie Howard 2015)

したがって、KPCSが負の影響を抱えていない、クリアなダイヤモンドであることを判断するための、決定的なエビデンスであるとは言い切れないのです。

■ジュエリーの背景に潜む、様々な影

宝石に関わる問題は、ダイヤモンドだけではありません。

金の採掘に用いられる水銀は、大気中に放出されることで環境汚染に繋がるだけではなく、人体に重大な健康被害を与えます。 ASGM(Artisanal Small-Scale Gold Mining小規模金採掘)*4と呼ばれる金の精製方法は、多くの途上国で用いられており、子どもたちの健康にも影響を与えています。

また、宝石を採掘する際に大量の土砂が河川へ流れ込み、地域の生態系を大きく変えてしまうなど、環境問題にも発展しています。

このように、ジュエリーの背景には様々な問題が影を潜めています。

■「エシカルジュエリー」の可能性

「エシカルジュエリー」という言葉には、現在、明確な定義はありませんが、倫理的な流通経路を辿って、関わる人たちが正当な利益を得ることの出来る、人や社会、環境に優しいクリアなジュエリーだという共通の認識の上に用いられています。

宝石がどのようなルートを辿ってジュエリーとしてデザインされ、身につける人の元できらきら輝いているのか、想像したことはあるでしょうか。

ジュエリーを手に取るとき、買い物をするとき、ふと手を止めて想像することが、サスティナブルな社会への大きな一歩となるはずです。

*1取材協力 「エシカル消費」に関する文章は、日本で初めてフェアトレード活動に取り組んだ「シャプラニール=市民による海外協力の会」の事務局長を務めた、静岡文化芸術大学の下澤嶽教授に取材した内容をまとめたものです。下澤嶽教授 プロフィール

*2アップサイクル 「アップサイクル(Upcycle)とは、リサイクルやリユースとは異なり、もともとの形状や特徴などを活かしつつ、古くなったもの不要だと思うものを捨てずに新しいアイディアを加えることで別のモノに生まれ変わらせる、所謂”ゴミを宝物に換える”サスティナブルな考え方です。」
(引用:日本アップサイクル協会 ホームページ)

*3 “blood Diamond” 2006年に公開された、Leonardo DiCaprio主演のサスペンス映画。1990年代のシエラレオネ内戦をモデルに、反政府組織(RUF)によって占拠されていた鉱山で採掘された“blood Diamond”を巡って展開するストーリーで、少年兵の実態や鉱山での強制労働、先進国社会との格差等が忠実に描かれた。「紛争ダイヤモンド」の問題を世界中に周知させるきっかけの一つとも言われている。

*4ASGM(Artisanal Small-Scale Gold Mining小規模金採掘) 水銀の用途として世界的に一番大きい割合を占めるのが、ASGMです。人為的に水銀を用いて金を精製する方法で、アフリカやアジア、南米等の発展途上国で行われています。 世界の精製金総生産量の内、約20%はASGMによるもので、従事者の中には、400~500万人の女性と子どもも含まれます。1年間で2000トン以上の水銀が、大気中や水中、土壌に放出されており、常温で液体である水銀はあらゆる排出源から環境を汚染した後、人間の体内にも侵入し、様々な健康被害を及ぼす可能性があります。 (参考:UNEP ホームページ 環境省 2014)

参考文献資料

  • Audrie Howard (2015) “Blood Diamonds : The Successes and Failures of the Kimberley Process Certification Scheme in Angola, Sierra Leone and Process Certification Scheme in Angola, Sierra Leone and Zimbabwe Zimbabwe” Washington University Global Studies Law Review, 15(1) https://openscholarship.wustl.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1565&context=law_globalstudies
  • 環境省(2014)「水銀に関する国内外の状況等について」 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/kagaku_busshitsu/seido_wg/pdf/001_s03_00.pdf
  • Kimberley Process https://www.kimberleyprocess.com/ (2021/03/07参照)
  • Global Witness https://www.globalwitness.org/en/ (2021/03/07参照)
  • Global Witness (1998) “A ROUGH TRADE : The Role of Companies Governments in the Angolan Conflict” https://cdn2.globalwitness.org/archive/files/pdfs/a_rough_trade.pdf
  • KPCS Core Document (2021/03/08参照) https://www.kimberleyprocess.com/en/kpcs-core-document
  • 下澤嶽「エシカルな地産地消についての考察~農業生産物を事例に~」『静岡文化芸術大学研究紀要』18巻(2017年)9-13頁。
  • 消費者庁(2020)「「倫理的消費(エシカル消費)」に関する消費者意識調査報告書」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/ethical/investigation/assets/consumer_education_cms202_200805_01.pdf
  • 武内進一(2001)「「紛争ダイヤモンド」問題の力学:グローバル・イシュー化と議論の欠落」『アフリカ研究』58巻(2001年)41-58頁。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/africa1964/2001/58/2001_58_41/_pdf/-char/en
  • 日本アップサイクル協会https://upcyclejapan.org/ (2021/03/08参照)
  • United Nations (2000) “General assembly urges states to implement measures to weaken link between diamond trade and weapons for rebel movements” https://www.un.org/press/en/2000/20001201.ga9839.doc.html (2021/03/07参照)
  • “blood Diamond” https://www.imdb.com/title/tt0450259/ (2021/03/07参照)
  • UNEP (2021/03/08参照)https://web.unep.org/globalmercurypartnership/our-work/artisanal-and-small-scale-gold-mining-asgm
  • 「倫理的消費」調査研究会(2017)「取りまとめ~あなたの消費が世界の未来を変える」https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/consumer_education/ethical_study_group/pdf/region_index13_170419_0002.pdf
  • World Diamond Council https://www.worlddiamondcouncil.org/ (2021/03/07参照)